JANAMEFメルマガ(No.10)

「ホスピタリストを増やしたい」

錦見 尚道
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院 院長


皆さん、初めまして、こんにちは。所属に日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院と書きましたが、そんな名称は聞いた事がない方も沢山いらっしゃるでしょう。実は、旧・名古屋第一赤十字病院と旧・名古屋第二赤十字病院は、現在の医療情勢に対応するため、従前より更に強く協力を進めて先々の経営統合も目指して、2021年7月に愛知医療センターと呼称する裁可を本社から得ました。3年以上にわたって委員会、準備室と検討を進め、既に事務部、コメディカルの交流人事が行われました。診療科は、手術協力体制構築が2科、来年から2病院一体運用予定の1科があり、協働の成果を期待しています。

 

さて、「ホスピタリスト」という言葉になじみの薄い方もいらっしゃると思いますので、はじめに、ハワイ州クイーンズメディカルセンターでホスピタリストをしている野木真将先生のブログ1)を加筆・引用します。

ホスピタリストという用語は、1996年に、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)でホスピタリスト部門を立ち上げて全国的に有名にした立役者として知られているRobert M. Wachter, M.Dによって提唱されました。

米国では1990年頃まで、地域で診療所を開業するプライマリケア医の患者が入院した際には、そのプライマリケア医が入院主治医として病棟管理をしていました。これは専門医であっても同様で、例えば呼吸器内科専門医が外来でフォローしている喘息患者が急性増悪で入院した際には、その専門医が入院管理をしていました(=ドクターフィーの所以)。ここには患者-医師関係の強い絆が存在し、患者側は心強かったと思います。

しかし入院主治医は外来診療の合間にしか病棟に来られないため、日中に何らかの問題が起こった場合、病棟スタッフは電話で相談するしかなく、実際の対応は院内にいるレジデントが担うことが多かったようです(=ホスピタルフィーの所以)。昼間の検査結果の把握と次の治療計画への修正なども夕方遅くになり、在院日数が長引く原因になりました。

そこで、1990年代前半に数人の医師がグループを組み、外来をしない日には病棟にいる時間を増やし、お互いの患者の管理をこまめにできるように協力しあう動きが民間病院で始まったのがホスピタリストのプロトタイプとされています。これまで課題が山積みであった病棟管理がスムーズに行くようになり、病棟スタッフからの評判も上がります。レジデントにとってみれば指導医が常に院内にいるため、回診がはかどります。病院としても、疾患名ごとの定額支払い(DRG)へ医療政策が移行する中、無駄な検査と在院日数を減らせて助かります。研修医の長時間労働が問題視され、労働時間と担当患者数に制限を設ける病院が増えたことも、ホスピタリストによる病棟管理を普及させる一因となりました。(ここまで加筆引用)

 

日本でも医療の専門分化が進んでいます。治療成績の向上など陽の面もありますが、専門領域間にエアポケットができる事も経験されています。当院も総合診療医を養成するプログラムを持っていますが、研修医にgeneralはspecialとの認識は困難な事もあり、希望者不足に悩んでいます。

縁あって日米医学医療交流財団の委員を勤めていますが、本年度から広報委員になりました。最初に出席した広報委員会で、GeneralistとHospitalistが混用されていたので、日本の病院である当院にはHospitalistは必要だが得がたく、Generalistは更に得がたいので明確に区別して欲しいと発言しました。その理由は、一般社団法人 日本病院会が2018年4月から診療料領域の専門医制度とは別に、日本版ホスピタリスト「病院総合医」を養成するプログラムを作成して運用を開始し、当院にも何名か修了者がいるからです。

病院総合医は、(1)多様な状態を呈する患者に包括的かつ柔軟に対応できる総合的診療能力を持つ(2)全人的に対応できる(3)地域包括ケアシステムにおける医療・介護連携の中心的役割を担う(4)多職種をまとめチーム医療を推進できる(5)地域の医療にも貢献できる医師を育成する、となっています。到達目標は、インテグレーションスキル、コンサルテーションスキル、コーディネーションスキル、ファシリテーションスキル、マネジメントスキルに分かれています2)

「総合診療医」のいない当院には「病院総合医」が必要であると前院長の時からの判断で、育成プログラムを作成して認定施設となっています。既に、それぞれの専門領域の専門医・指導医で、診療科の部長クラスの医師に、毎年一名受講して戴いています。この世代をターゲットにしたのは、1)専門領域の治療に没頭している時期を過ぎ、アイポイントを上げて病院全体を見てもらえる能力と時間があること、2)病院の人的資源を活用する(指示する?)術と経験を持っていること、が大きな理由です。現在、当院の病院総合医は4名になりました。次年度には、診療科を越えての「ホスピタリスト」チームに、研修指導の充実、病棟管理の迅速化、Rapid Response TeamやPatient Flow Management等のフロントラインとなる院内横断的な(在院日数短縮や働き方改革の促進を含めた)診療活動の司令塔になって戴きたいと期待しています。

 


1)http://ameilog.com/masayukinogi/2018/08/27/081302(2021年10月10日アクセス)
2)http://www.hospital.or.jp/sogoi/(2021年10月10日アクセス)

執筆:錦見 尚道
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院 院長
公益財団法人 日米医学医療交流財団 広報委員

 

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発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2021年10月29日】